エンジニアとしての働き方の1つに「客先常駐」があります。文字通りクライアントのオフィスに足を運んで、その場で開発業務に従事することを指します。IT業界特有の働き方であり、雇われている会社と勤務する会社が別々になっていることが大きな特徴。
1つの会社で勤め続けるのではなく、さまざまな会社をわたり歩いてプロジェクトに携わることになるので、幅広い経験を積むことが可能です。一方で、職場が変わるごとに周囲とのコミュニケーションが必要になり、報酬や待遇も低くなりがちというデメリットも存在します。
ここでは、そんな客先常駐に関する仰天エピソードについてご紹介していきます。
客先常駐は、エンジニアを求めているクライアントに対し、自社で雇用しているエンジニアを派遣する事業モデルを指します。エンジニアが自らクライアントのオフィスで開発業務を担う、IT業界ならではの働き方といえます。
客先常駐の契約期間中は、入社した会社に出勤するのではなく、クライアントの会社に出社して働くことです。報告書を提出するために自分が籍を置いている会社に出社することがありますが、基本的に自宅からクライアントの会社を往復する生活スタイルです。
正社員という身分で雇われてはいますが、実質的には「特定派遣」という形態で働く派遣社員に近いものと考えてよいでしょう。これは、成果物の納品に対して報酬・手当が支払われるのではなく、労働力の提供(労働時間)に対してフィーが発生するものです。
正社員 | 客先常駐 | フリーランス | |
雇用者 | 勤務先と同じ | 派遣会社 | 自分 |
勤務先 | 雇用者と同じ | 派遣会社の顧客企業 | なし |
報酬相場 | 高め | やや低め | 成果によって変動 |
メリット | 勤務先が固定なので安定 | さまざまな職場を経験可能 | 自分の裁量で仕事を決定できる |
デメリット | 強制的に税金が決まる | 安定性にかける | 全てが自己責任 |
普通の正社員と、客先常駐、フリーランスの3つの働き方を比較してみましょう。客先常駐の大きな特徴は「さまざまな職場を経験可能」である点です。正社員は給料が高めになる傾向がありますが、そこ以外の世界を知らない井の中の蛙になりやすいと言えます。
すべてを自分で決めて、責任を一挙に背負えるならフリーランスを選ぶのも手ですが、会社というバックグラウンドを得たいなら客先常駐のほうが適しているでしょう。
派遣社員と比べると、正社員として雇用されるがゆえに社会保険をはじめとする福利厚生が充実し、安定した身分で働けるというメリットがあります。しかし客先常駐エンジニアは残業が発生しやすくなるという側面も持っています。残業代は支払われるのが普通ですが、労働時間が拘束されやすくなる点に注意が必要です。
少し視点を変えて考えてみると、IT企業の経営者からすれば客先常駐というビジネスモデルは、非常に効率の良い稼ぎ方といえます。というのも、自社開発によって製品・サービスを販売する場合は、売上によって業績に波が出てしまいます。
一方で客先常駐の場合は、クライアントから毎月固定のコストを支払ってもらえるので、安定した業績を保てるというわけです。加えて、広いオフィスや高額なPCを揃える必要がないため、経費も最小限で済みます。
エンジニアの数を増やして大量の正社員を雇用することで、ほとんどリスクを背負うことなく売上を伸ばすことが可能になるんですね。
では、そんな客先常駐のエンジニアは、どんな働き方をしているのでしょうか?
まずポジティブなエピソードから紹介すると、客先常駐の場合は「未経験からでもスタートしやすい」という話をよく聞きます。客先常駐を手がける会社では、とにかく人手を欲する傾向にあるため、入社難易度は低く未経験からでも入社しやすいことが珍しくありません。
これから新たにIT業界を目指そうという人にとっては、第一ステップとして客先常駐という契約形態を選ぶのは賢明な選択肢といえます。
また、「いろんな職場でさまざまな人に会うことができる」点も、客先常駐のメリットとしてよく挙げられる点です。入社した会社で雇用されつつも、数ヶ月から数年単位で働く会社が変わりますので、数多くの会社の常識に触れ、いろいろな人から刺激を受けられる点は見逃せません。
働く会社やプロジェクトによって、使用する言語やツールも異なってきます。その都度学び続ける姿勢は必要になるものの、多くの働き方に触れることで自身のスキルアップにつながる可能性も高くなります。
出会う人が多くなることで、新たな友人が増えたり、一緒に会社を創業することになったり、あるいは常駐先の会社で出会った異性と付き合うことになったりと、人間関係におけるメリットも少なくありません。
IT業界のさまざまな人とのコネクションを築き、人脈を広げられる点は、客先常駐の大きな魅力といえるでしょう。
また、ごく少ないケースではありますが、「常駐先企業にヘッドハンティングされる」ことも、客先常駐のメリットの1つです。新卒や中途で入社するには非常に難易度が高い大手企業であっても、客先常駐での実績が認められれば、引き抜いてもらえる可能性が存在します。
周囲のエンジニアより高い生産性を発揮して、円滑な人間関係を構築するなどの努力が必要ですが、夢のあるキャリアパスとして魅力を感じる方も多いようです。
ここまでは客先常駐のポジティブなエピソードについて紹介してきましたが、物事には表があれば裏があります。同様に、客先常駐には問題点やデメリットとなる側面もいくつか存在します。ここからは客先常駐のネガティブなエピソードを取り上げていきましょう。
派遣される常駐先は、常駐エンジニアに丁寧に指導しているところもあれば、そうでないところもあります。結果として「スキルアップが難しいケースがある」点に、注意しなければいけません。
クライアントからすれば、客先常駐のエンジニアに対してある程度のスキルを要求するものですので、教育する対象として見ておらず、一定の期待を持って業務を割り振ることが多くなります。したがって、自社雇用の社員のように丁寧に指導してもらえるとは限らず、わからないことは積極的に質問していく姿勢が求められるでしょう。
また、実質的な派遣スタッフとして気軽に登用できることから、要件定義やヒヤリング作業といった上流工程を任されることは少なくなります。コーディングやバグチェックといった単純作業をひたすら担当することもあり、スキルアップにつながらないケースも考えられるわけです。
加えて、「年齢や給料の上限がある」ことも、注意すべきポイントといえます。1つの客先で常駐する期間はあらかじめ決まっていますので、長期間勤めることで昇給・昇級を狙う…というのが難しく、実績やキャリアを積み上げにくいという側面があります。
40代、50代と年齢があがるにつれて人件費がかさむのが通例ですので、より安いコストで派遣できる20代、30代のエンジニアの方が客先常駐スタッフとして好まれる傾向にあります。したがって、中堅〜ベテランと呼ばれるにつれて常駐先が少なくなり、仕事が減ってしまう危険性があります。
プライベートに関連したデメリットとしては、「休みを取得する難易度が高い」点も忘れてはいけません。急な体調不良やトラブルによって仕事を休まざるを得ない場合、常駐先のクライアントと、入社している会社の双方に連絡する必要があります。
有給休暇を取得する際にも同様で、休みを取得するハードルはかなり高くなってしまいます。特にシフト制で勤務している職場ではさらに難易度が上がる可能性が高いので、注意しておきたいところです。
(techcareer編集部調べ)
客先常駐のエンジニアとしての経験を持つ方からは、次のような意見を見聞きすることがあります。
「客先常駐は評価されにくい。勤務先と雇用者が別の会社だから、仕事で成果を残してもなかなか給料アップや待遇改善につながらない」
たしかに客先常駐の大きな特徴は、雇われる会社と働く会社が別々になっている点ですよね。仮に勤務先でいい成果を残したとしても、「あのエンジニアはすごくよかったよ!」と派遣会社に報告するというのはまれなのかもしれません。
自分の成果がしっかりと評価されてほしい、給料や待遇面を改善してほしいと考えるのであれば、別の働き方を考えてみてはいかがでしょうか。
別の先輩の口コミの中には、次のような意見もありました。
「たった1人で知らない企業の人たちと一緒のオフィスで働くことになるので、人間関係のストレスが大きかった。同じ職場の人と馴染むのが大変で、相談できる人も少ない。欠勤の連絡も何人もの担当者に報告する必要があって手間がかかった」
最近では、客先常駐になったとしても2〜3人以上のチームで派遣するなどの工夫を行っている企業も多くなります。しかし今でも1人だけで客先に常駐するよう指示されることが珍しくありません。
そうなったとき、周りとうまくコミュニケーションが取れなければ、成果を残すよりも前に人間関係で失敗して職場を去ることになるでしょう。人によってはうつ病を発症したり、いじめの対象になったりすることも考えられますので注意が必要です。
もちろん客先常駐にはメリットも多くあります。たとえば、次のような口コミも見受けられました。
「いろいろな現場を経験して、各企業で人脈を築くことができたので、それが後々の起業で非常に役に立った。周囲としっかりとコミュニケーションが取れれば、むしろさまざまな経験となって自分の役に立つので、客先常駐をやってよかったと思う。」
職場が1つに固定されていないというのは、メリットもあればデメリットもあることがわかります。客先常駐をネガティブなものと捉えることなく、前向きに仕事に取り組めば貴重な経験となるのではないでしょうか。
以上のエピソードを踏まえ、客先常駐として働く際に注意すべきポイントとしては、次の3つがあります。
以上の3点に気をつけることで、常駐先の企業に引き抜かれたり、幅広いスキルを活かして別のキャリアパスを選択できるようになるはずですよ。
客先常駐の仕事は、常に新しい環境や人間関係に馴染む努力が必要です。それが知らぬ間にストレスの原因となってしまい、心を病んでしまう結果に繋がることもあるでしょう。
進学や就職など、環境が変わるタイミングでは誰でも不安と期待を抱くものです。自分の過去を振り返って、そうしたタイミングで不安よりも期待のほうが大きかったという人は、客先常駐に向いた性格の持ち主かもしれません。
雇用主と職場の企業が異なる客先常駐では、どうしても評価基準があいまいになり、明確なルールのもとで待遇が受けられないことも考えられます。給料や待遇面を重視する人には向かないかもしれませんが、やりがい重視で働きたい人にはうってつけの働き方でしょう。
職場によっては大規模なプロジェクトに携わることができたり、大手企業のオフィスで働けることも出てくるでしょう。そうした待遇以外の面を重視する人に向いています。
客先常駐は、さまざまな職場や働き方を経験できることが大きな特徴です。1つの職場で安定して働き続けたいと考えている人には向かないものの、「せっかくならいろんな現場を見てみたい」と思える人には最適な働き方です。
昔から好奇心が強くて新しい物好きな人や、熱しやすく冷めやすい人、ずっと同じことをしていると飽きてモチベーションが保てない人などは、客先常駐によって本来の力を発揮できるかもしれません。
何かとネガティブなイメージを持たれがちな客先常駐ですが、さまざまな仕事を経験でき、人脈が広がるといったメリットもたくさん存在します。特に未経験からのスタートで、コミュニケーション力に自信がある方であれば、第一ステップとして最適な働き方になるでしょう。
メリット・デメリットを十分に吟味して、理想のキャリアを考える上でのヒントとして、客先常駐という働き方を活用してみてくださいね。
3つの質問に答えるだけで、フリーランスエンジニアとしての単価相場を算出します。 スキルやご経験にマッチする案件もあわせてご紹介いたしますので、気軽にご活用ください! ※単価相場の算出に個人情報の回答は必要ございません。