SAP2027年問題とは?S/4HANA移行の選択肢や直面する課題・案件例まで解説
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「SAP2027年問題」という言葉を耳にする機会が増えていませんか?
現在、多くの企業で利用されている「SAP ERP 6.0(ECC6.0)」の標準保守が2027年末に終了します。提供元であるSAPは、次世代ERP「SAP S/4HANA」への移行を推奨していますが、「何から手をつければいいのか分からない」「本当に今すぐ動くべきなのか」と悩んでいる企業も少なくありません。
基幹システムの刷新は、単なるITの話ではなく、経営や業務プロセスそのものに大きな影響を与える重要なテーマです。本記事では、SAP2027年問題の基本から対応策、移行の選択肢、そして市場動向までをわかりやすく解説します。まずは全体像を整理し、自社にとって最適な一歩を見つけていきましょう。
SAP2027年問題とは

世界中の大企業から中堅企業まで、ビジネスの基幹システムとして広く導入されているドイツSAP社のERP(統合基幹業務システム)。日本国内だけでも約2000社が導入していると言われていますが、現在多くの企業で稼働している主力バージョン「SAPERP6.0(通称ECC6.0)」のメインストリームメンテナンス(標準保守)が、2027年12月31日をもって終了します。
この期限を巡り、利用企業が対応を迫られている一連の課題を総称して「SAP2027年問題」と呼んでいます。基幹システムは企業の心臓部であり、そのサポートが終了することは、単なるIT部門の課題ではなく、ビジネスの継続性に関わる経営全体への重大な問題として認識されています。
以前までこの課題は「SAP2025年問題」と呼ばれていました。当初、SAP社は標準保守の終了期限を2025年末と設定していたためです。しかし、2020年2月にSAP社はこの期限を2年間延長し、2027年末とすることを発表しました。この期限延長の背景には、ユーザー企業の実情とIT業界のリソース不足があります。基幹システムの刷新には数年単位の膨大な時間とコストがかかります。ユーザー企業からは「現行業務への影響が大きすぎて移行策がまとまらない」「DXを見据えた抜本的な業務改革を行うための準備期間が足りない」といった切実な声が多く上がりました。
また、システム移行を支援するベンダー側の専門エンジニアやSAPコンサルタントが圧倒的に不足しているという市場全体の問題も、期限延長の大きな要因となりました。
標準保守が終了したシステムを使い続けるリスク

2027年末という期限を過ぎて現行のSAP ECC6.0を使い続けた場合、システムが翌日から突然停止して動かなくなるわけではありません。しかし、SAP社からのサポート体制が「カスタマー・スペシフィック・メンテナンス」と呼ばれる非常に限定的なものに切り替わります。
これにより、最も深刻な影響が出るのが法改正への対応とセキュリティの確保です。例えば、消費税の税率変更やインボイス制度のような新しい法的要件が施行されても、それに対応するための更新プログラムがメーカーから提供されなくなります。
また、新たに発見されたコンピュータウイルスの脅威やシステムの脆弱性に対しても修正パッチが配布されなくなるため、サイバー攻撃のリスクに無防備な状態となってしまいます。コンプライアンスとセキュリティの両面で、企業の根幹を揺るがす重大なリスクを抱えながら業務を続けることになってしまうのです。
SAP2027年問題への対応

SAP2027年問題への対応策は大きく3つあります。次世代ERPへの移行、他社ERPへの乗り換え、延長保守による継続利用です。自社の業務特性・予算・将来戦略を踏まえ、最適な選択肢を見極める必要があります。
最新版「SAPS/4HANA」への移行(SAP推奨)
SAP2027年問題に対して最も多くの企業が検討し、かつSAP社が公式に推奨している選択肢が、次世代ERPである「SAPS/4HANA」への移行です。従来のシステム構成からデータベースの構造までを一新し、現代のデジタルビジネスに対応するための強力な基盤となります。
これは単なるシステムの延命措置ではなく、リアルタイムなデータ分析やAIなどの最新テクノロジーを活用したデータドリブン経営を実現するためのステップアップと位置づけられます。ただし、移行には業務プロセスの見直しや膨大なデータの整理が伴うため、入念な計画と数年単位のプロジェクト体制が必要になります。
他社製ERPパッケージへの乗り換え(脱SAP)
SAPの利用をやめ、他社のERPソリューションへ乗り換えるという選択肢もあります。近年はクラウド型のERPサービスが多数台頭しており、国産のERPパッケージを採用する企業も増えています。国産ERPは日本の複雑な商習慣や税制に標準で対応していることが多く、現場のユーザーにとって使い勝手が良いというメリットがあります。
SAPS/4HANAへの移行コストが想定以上に膨らむ場合や、自社の事業規模に対してSAPシステムがオーバースペックになっている場合などには、総所有コスト(TCO)を削減する目的で「脱SAP」を決断する企業も存在します。ただし、これまで長年蓄積してきたSAP特有のデータ構造や業務フローを別のシステムに乗せ換える難易度は非常に高く、慎重な比較検討が求められます。
延長保守や第三者保守を利用した継続利用
2027年末までにどうしても新システムへの移行が間に合わない企業に向けた救済措置として、現行システムの利用を延長する選択肢も残されています。SAP社は、年間の保守料金に2%の追加費用を支払うことで、メインストリームメンテナンスの期限を2030年末まで3年間延長できるオプションを提供しています(適用には条件あり)。
また、メーカー公式のサポートではなく、専門の第三者企業が提供する保守サービスに切り替えて使い続ける方法もあります。しかし、これらはあくまで一時的な時間稼ぎ、つまり延命措置にすぎません。将来的な機能拡張は望めず、最終的にはどこかのタイミングで新しいシステムへ移行しなければならないため、根本的な課題解決にはならない点に注意が必要です。
移行の主流となる次世代ERP「SAPS/4HANA」の特徴

SAP S/4HANAは、リアルタイム経営を実現する次世代ERPです。インメモリ技術やクラウド対応、直感的UIなど、従来のECC6.0とは根本的に異なる設計思想を持ち、DX推進の中核基盤として位置づけられています。
インメモリデータベース「SAPHANA」による圧倒的なデータ処理速度
従来のSAPERPと最新のSAPS/4HANAとの最大の技術的な違いは、システムを動かす土台となるデータベースにあります。SAPS/4HANAは、「SAPHANA」と呼ばれるカラム型インメモリデータベースを採用しています。
従来はハードディスクにデータを保存し、必要に応じてデータを呼び出して計算するディスクベースの処理を行っていましたが、SAPHANAではすべてのデータをコンピュータのメモリ上に保持して処理を行います。これにより、月次決算の集計や膨大な在庫データの検索といった負荷の重い処理が、飛躍的かつ圧倒的なスピードで完了するようになります。過去の実績を数日後に確認するバッチ処理中心の経営から、現在の状況をリアルタイムに把握して即座に意思決定を行う経営へとシフトすることが可能になります。
ユーザー中心の直感的なUI「SAPFiori」による操作性の向上
従来のSAPシステムは、機能が豊富である反面、操作画面が複雑で、専門的なトレーニングを受けないと使いこなすのが難しいという課題がありました。SAPS/4HANAではこの課題を解決するため、「SAPFiori(フィオーリ)」という新しいユーザーインターフェースが採用されています。
SAPFioriは、直感的でわかりやすいデザインが特徴で、現代のスマートフォンアプリやWebサービスと同じような感覚で直感的に操作できます。また、パソコンだけでなくタブレットやスマートフォンなどのマルチデバイスにも対応しているため、営業担当者が外出先からモバイル端末で在庫を確認したり、管理者が移動中にスマートデバイスで承認作業を行ったりと、ペーパーレス化や柔軟な働き方を強力にサポートします。
クラウド環境への対応と最新テクノロジー連携
従来のSAPERPは自社のデータセンターにサーバーを立ててシステムを構築するオンプレミス型が主流でしたが、SAPS/4HANAはクラウド環境を前提としたアーキテクチャにも対応しています。AWSやGoogleCloudといったパブリッククラウド、あるいはパートナー企業が提供するマネージドクラウドを活用することで、インフラの維持管理にかかる手間を大幅に削減し、事業規模の拡大に合わせた柔軟な拡張を実現できます。
さらに、AIや機械学習、IoTといった最新のテクノロジーとシームレスに連携できるインテリジェントな機能も組み込まれています。単純な業務の自動化や、蓄積されたデータからの将来予測など、DXを推進するための強力なエンジンとなります。
SAPS/4HANAへの移行手法(マイグレーション方式)と選び方

S/4HANAへの移行には複数の方式があり、自社の既存資産や業務改革の方針によって最適解が異なります。コスト・期間・業務影響を比較しながら、戦略的に選択することが成功の鍵です。
ブラウンフィールド(コンバージョン):既存資産を活かす
現在稼働しているSAPECC6.0の設定やアドオン(追加開発した独自のプログラム)、蓄積されたデータをそのままSAPS/4HANAの環境へと変換して移行する手法です。既存のシステム資産を引き継ぐことができるため、現場の業務フローを大きく変えることなく、ユーザーへの影響を最小限に抑えながら新システムへ移行できるのが特徴です。
ゼロから作り直す手法に比べて移行にかかる期間やコストを抑えやすいというメリットがありますが、古くて非効率な業務プロセスや、長年の改修でブラックボックス化した複雑なプログラムもそのまま引き継いでしまう技術的負債が残るリスクがあります。
グリーンフィールド(リビルド):業務を標準化しゼロから再構築する
現行のシステムにはとらわれず、システム環境を一から新しく構築し直す手法です。SAP社が世界中の優良企業の業務ノウハウを集約した「SAPベストプラクティス」と呼ばれる標準のテンプレートをベースにしてシステムを構築します。
最大の特徴は、システムに合わせて自社の業務プロセスを根本から見直し、グローバル標準へと業務を刷新できる点です。DXを真の意味で実現するための理想的なアプローチですが、アドオンの再開発や現場の業務手順の大幅な変更が伴うため、社内の変革に対する強いリーダーシップと、膨大な時間とコストが必要となります。
選択データ移行(Bluefield/SelectiveDataTransition):両者のメリットを組み合わせる
ブラウンフィールドとグリーンフィールドの中間に位置する、新しいハイブリッド型の移行手法です。現行システムの中から「今後も残すべき必要な期間・会社コード・モジュールのデータや設定」だけを選択して抽出し、新しく構築したSAPS/4HANAの環境へ移行させます。
たとえば、古い不要なデータを切り捨てて身軽になったり、複数のインスタンスでバラバラに動いていたシステムを一つに統合しながら移行したりと、柔軟な対応が可能です。システム停止時間を極小化できるメリットもありますが、データの整合性を維持するために高度な分析力と専門的なデータ移行ツールが要求されます。
SAP2027年問題と移行成功の戦略

移行を阻む最大の障壁は、アドオンの肥大化や人材不足です。技術的課題だけでなく、組織横断の合意形成や業務改革も求められます。成功には経営主導のプロジェクト推進が不可欠です。
アドオンの肥大化と「FittoStandard」「クリーンコア」戦略
日本の企業がSAPを導入する際、自社の独自の商習慣や業務プロセスに合わせて、標準機能に存在しない機能を個別に追加開発するアドオンが大量に作られてきました(FittoGapの手法)。しかし、このアドオンが複雑に絡み合いブラックボックス化していることが、システムをバージョンアップしたりS/4HANAへ移行したりする際の最大の足かせとなっています。
今後のシステム運用を成功させるためには、「Fit to Standard(フィット・トゥ・スタンダード)」、つまり自社の業務をシステムの標準機能に合わせるという発想への転換が不可欠です。どうしても必要な独自機能については、ERPの本体には手を加えず、SAPBTP(Business Technology Platform)などの外部のクラウドプラットフォーム上で開発してAPIで連携させる「クリーンコア戦略」を徹底することが、将来のバージョンアップを容易にし、システムの柔軟性を保つ鍵となります。
SAP移行を担うIT人材・コンサルタントの圧倒的な不足
日本国内でSAPを導入している企業は約2000社に上りますが、その移行プロジェクトを一手に引き受けることができるITベンダーやSAPコンサルタントの数は約100社程度に限られており、業界全体で深刻なリソース不足に陥っています。
2027年の期限に向けて多くの企業が一斉に移行プロジェクトを立ち上げるため、優秀なエンジニアや信頼できるパートナー企業を確保することが年々難しくなっています。経済産業省が提唱する「2025年の崖」問題でも指摘されているように、IT人材の不足は日本の企業にとって致命的な問題です。自社のIT部門の人材を育成するとともに、外部の専門家を早期に確保するための素早い意思決定が経営層に求められています。
単なるシステム更改ではなく、DX推進の好機として捉える
SAP2027年問題を、単なるメーカーのサポート切れに伴う老朽化対応や仕方なく発生するITコストとしてネガティブに捉えるべきではありません。古いレガシーシステムから脱却し、最新のテクノロジー基盤へと移行することは、企業全体のデジタルトランスフォーメーションを推進するための絶好のチャンスです。
経営トップが自らプロジェクトの意義を全社に発信し、IT部門だけでなく現業部門も巻き込んで業務の在り方を根本から見直すことで、激しい市場変化に対応できる俊敏でデータドリブンな組織へと生まれ変わることができます。
SAPS/4HANAコンサルタント・エンジニアの需要

前述の通り、SAP2027年問題のタイムリミットが迫る中、多くの企業が一斉にS/4HANAへの移行や新規導入プロジェクトを推進しているため、市場におけるSAPS/4HANA関連のコンサルタントやエンジニアの需要はかつてないほど高まっています。
特に、ビジネスプロセスの見直しを伴う要件定義フェーズをリードできる人材や、FI(財務会計)/CO(管理会計)、SD(販売管理)/MM(在庫購買管理)といった主要モジュールの知見を持つ専門家の市場価値は急上昇しています。フリーランスのITエンジニアやコンサルタント向けのエージェント市場においても、SAP関連の案件は高単価かつ長期稼働の傾向が強く、非常に魅力的な選択肢となっています。
以下はテクフリにてご紹介中の案件例です。
| 項目 | 案件例1 | 案件例2 | 案件例3 |
|---|---|---|---|
| 業務内容 | SAP S/4HANAのver upプロジェクトの立ち上げ支援 | 海外子会社向けに先行で導入を予定しているSAP S/4HANA Cloud Public EditionのFIモジュールの導入支援 | 香料メーカーにおけるSAPグローバル導入プロジェクト |
| 単価目安 (月額) | 140万円〜160万円 | 200万円〜220万円 | 180万円〜200万円 |
| 働き方 | 一部リモート | 一部リモート | リモート |
| 必要なスキル |
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SAP2027年問題に向けた具体的なステップ

期限まで残された時間は限られています。まずは現行システムの棚卸しと現状分析を行い、自社に最適な移行方針を策定することが重要です。早期着手が、コスト抑制と人材確保の両面で優位性をもたらします。
既存システムの棚卸しとアセスメントの実施
移行プロジェクトの第一歩は、現在の自社システムがどのような状態にあるのかを正確に把握することです。長年の運用で追加されてきた大量のアドオンプログラムの中に、現在全く使われていない不要な機能はどれくらいあるのか、S/4HANA環境への移行に際して互換性がなく修正が必要なプログラムはどれかといった現状分析を実施します。この事前の棚卸しを徹底することが、移行後の思わぬトラブルを防ぎ、無駄な改修コストを削減するための最も重要な土台となります。
自社に最適なITロードマップと移行方針の策定
アセスメントの結果を踏まえ、自社のビジネス戦略に最も合致する移行方針を決定します。既存の資産を活かして一時的なコストと業務影響を抑えるブラウンフィールドを選択するのか、あるいはこの機会に過去の負債を清算し、業務をグローバル標準に合わせて刷新するグリーンフィールドを選択するのか、経営層を交えて議論を尽くす必要があります。あわせて、SAPS/4HANAを稼働させるインフラとして、オンプレミス環境を維持するのか、パブリッククラウドを利用するのかといった全体的な中長期ITロードマップを策定します。周辺システム(SaaS型CRMや人事システムなど)とのAPI連携を含めたコンポーザブルなシステム構成を描くことも重要です。
信頼できる導入パートナーの早期確保と社内体制の構築
前述の通り、SAPの導入を支援するベンダーやコンサルタントのリソースは枯渇しつつあります。移行方針の輪郭が固まったら、実績豊富で自社の業界知識に明るい、信頼できるパートナー企業を早期に選定し、プロジェクトの支援体制を確保することが急務です。同時に、社内においてもIT部門だけに任せきりにするのではなく、各業務部門のキーマンを巻き込んだ横断的なプロジェクトチーム(CoE組織など)を立ち上げる必要があります。全社一丸となって痛みを伴う業務改革(BPR)と移行を推進するための、チェンジマネジメントの体制を整えることがプロジェクト成功への近道です。
まとめ

SAP2027年問題は、単にシステムの保守期限が切れるというだけのシステム部門の問題ではなく、企業が今後も競争力を維持し、変化の激しいビジネス環境を生き抜くための経営課題です。期限はまだ少し先のように感じられるかもしれませんが、基幹システムの刷新には構想段階からアセスメント、要件定義、開発、テスト、本番稼働まで、数年単位の長い時間と多大な労力が必要です。
経営判断を先送りにして時間切れとなり、高額な延長保守費用を支払い続けたり法改正未対応やセキュリティのリスクを抱えたりすることは、企業にとって大きなマイナスとなります。
まずは自社のシステム環境の可視化と徹底したアセスメントから着手し、未来を見据えた最適なIT戦略を一日も早く描き始めましょう。







