アノテーション(annotation)という言葉は本来、「注釈」という意味で使用されます。一方でAI・機械学習の分野におけるアノテーションとは、分析に使用するデータにタグ付けを行う工程のことを指します。
例えば、画像に写っている物体に対して「犬」「猫」といったタグ付けをすることで初めて、AIはそれが犬や猫であることを学習します。AIはタグ付けされたデータ(教師データ)を大量に学習することによって、新たな画像を入力として与えた時に犬と猫を正しく判別できるのです。精度の高いAIモデルを構築するには、膨大な量の教師データが必要となります。したがって、アノテーションはAIの精度を向上させるために重要なプロセスと言えるでしょう。
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AIシステムを構築するにあたってアノテーションは欠かせない工程とお伝えしましたが、以下の2つの観点から、アノテーションの必要性についてさらに詳しく解説していきます。
先述の通り、アノテーションはAIモデルの精度の向上において非常に重要な工程です。適切なアノテーションが実施された教師データを用いることによって、AIモデルは入力されたデータを正しく識別・予測することができます。例えば医療画像の診断において軽微な異常を認識する精度が向上すれば、病気を早期発見して適切な治療ができるでしょう。
医療分野における例をご紹介しましたが、近年ではビッグデータと呼ばれる膨大なデータの活用が様々な分野において注目されています。得られたデータをそのまま使用するのではなく正しい前処理を行うことによって、データ活用の幅はさらに広がっていくでしょう。ビッグデータと機械学習への活用が期待されているからこそ、適切なタグ付けを行うアノテーションの重要性が注目されているのです。
適切なアノテーションによって学習を行ったAIモデルは、人間が行う作業を代行して効率化することに役立てられます。顧客からの問い合わせに対応するチャットボットや、テキストの分類、画像の識別などAIの活用は多岐に渡っています。AIの導入によってリソースを削減できれば、人的コストを大幅に削減することも可能です。
また、エラー発生率の低下や作業時間の短縮が実現すれば、提供するサービスの品質向上にもつながるでしょう。アノテーションによるAIの精度向上はコスト削減のみならず、ユーザーの満足度向上にも寄与します。
アノテーションは、対象となるデータによっていくつかの種類に分けられます。本記事では以下の3つについて詳しく解説します。
画像や動画データに対してアノテーションすることで、AIによる物体検出、領域抽出、画像分類といったタスクが可能となります。物体検出は画像内にある物体の位置を特定する技術で、交通監視システムで車や歩行者を検出する場合などに使われます。領域抽出は物体検出に似ていますが、より詳細な形状や境界を抽出するのが特徴です。医療画像における腫瘍領域を特定するといった活用もされています。画像分類は、画像全体が何を表しているかを識別するタスクです。1枚の画像を見て、それが犬の画像なのか猫の画像なのかを分類することができます。
画像や動画のアノテーションは近年、自動運転技術の開発や顔認証システムの精度向上において特に重要な役割を担っています。自動運転の開発においては周囲の車両や歩行者に加えて交通信号などを正確に識別する必要があり、そのための高品質なアノテーションが求められます。顔認証システムにおいては、個人の特徴を正確に捉えるためのアノテーションが不可欠です。
音声のアノテーションは、音声データにラベルを付けてテキスト化するのが一般的です。これにより、音声認識システムが会話や指示を理解できるようになります。例えば、音声アシスタントがユーザーの質問に答えるためには、多様な発言パターンを理解する必要があります。発話の感情や抑揚、話者の性別や年齢層などの情報をアノテーションに含めることで、より高度な認識が可能となるのです。
例えば怒っている声と楽しそうな声を区別できれば、その情報をもとに反応を変化させることもでき、AIモデルはより人間らしい対応ができるでしょう。音声アシスタントがユーザーの質問に適切に答えられるのも、背後にあるアノテーションの賜物だということです。音声アノテーションの精度が向上すれば、音声によって操作できるスマートデバイスや自動応答システムなど、身近なツールの利便性がさらに高まるでしょう。
アノテーション作業は従来、人間の手によって行われてきました。しかし大量のデータにアノテーションを実施する場合には、膨大な時間が必要となるだけでなく、個人によるバイアスが入ってしまうという課題があります。アノテーションに主観が入ってしまうと、AIモデルの精度に影響を及ぼす恐れもあります。このような課題を解決するために、近年ではアノテーション作業の自動化や代行サービスなど、効率化をサポートする仕組みもあります。それぞれの特性を理解した上で、データの種類やプロジェクトの規模などに応じて最適な方法でアノテーションを実施することができます。ここでは代行サービスと自動化ツールによるアノテーションの実施方法について、詳しくご紹介します。
アノテーションを専門の代行サービスに依頼する方法があります。先述の通り、アノテーションを全て自社の人間の手作業で行うには、かなりの人的コストと充分な作業環境が必要となります。そこでアノテーションの一部または全てを外部の専門企業に委託する、クラウドソーシングの利用も注目されています。専門性・実績のある企業に依頼すれば、社内リソースを割かずに品質の高さも担保できるでしょう。
大規模なデータセットを扱うプロジェクトや、専門性の高い分野におけるアノテーションが必要な場合は特に有効な手段です。一方で、金銭的なコストがかかることや外部委託に伴うセキュリティリスクの管理には注意しましょう。
アノテーションの作業の一部を自動化するツールも登場しています。機械学習モデルを用いてデータを自動的にアノテーションすることが可能で、大量のデータを迅速かつ効率的に処理できる点が大きな魅力です。また、一部の作業を自動化することで開発者はより複雑なタスクに集中できるようになります。
しかし完全な自動化はまだ困難とされており、精度の確認や修正のために人間の介入が必要な場合もあります。AIの性能が今後さらに向上すれば、自動化の比率は高くなっていくでしょう。自動化ツールは比較的単純なアノテーションや、データ活用の初期段階における処理に適しています。現時点では人手と自動化ツールの組み合わせが、最も効率的なアノテーションに適しているかもしれません。
AI、機械学習開発において、アノテーションは非常に重要なプロセスであるということがお分かりいただけたでしょうか。AI技術やビッグデータが注目されていますが、それらを有効活用できるかどうかは使用するデータの品質次第と言っても過言ではありません。先ほどご紹介した通り、アノテーション作業自体の自動化や効率化も進んでおり、人工知能がアノテーションを行う「自己学習システム」の開発も進められています。高品質なアノテーションはモデルの性能向上に直結するため、精度と効率を両立したアノテーション方法を選択することが重要なのです。
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