個人でエンジニアとして活動しているフリーランスのなかには、派遣スタッフとして会社で働きたいと考える人も少なくありません。ですが、個人事業主として活動している以上、派遣としては雇ってもらえないんじゃないかと心配する人も多いようです。
ここでは、エンジニアの個人事業主が派遣として働きたいと考えたときに、押さえておきたいポイントやメリット・デメリットについて紹介します。
個人事業主が派遣として働くのは、それほど珍しいことではありません。フリーランスとしての収入だけでは生活が成り立たないという場合に、アルバイト感覚で派遣という選択肢を選ぶ人はたくさんいます。
個人事業主も一人の個人ですので、派遣会社に登録できないということはありません。個人事業主だからという理由で、派遣スタッフとして働くことを断られるというのも考えにくいでしょう。むしろ、本業で実績を残しているフリーランスの方であれば、高いスキルを持った人材として歓迎されることもあるかもしれません。
ただ、派遣として働くというよりも、在宅や常駐で働く個人事業主のほうが多いのは確実でしょう。フリーランスとしてクライアントと業務委託契約を結び、自宅やカフェ、もしくは会社のオフィスに出勤して働くスタイルです。
一定のスキルを持ったエンジニアであれば、わざわざ派遣会社を通して仕事を得るよりも、自分でクライアントを探して営業することで、直接契約を結んだほうが報酬が高くなります。すでに稼げているフリーランスが、あえて派遣という働き方を選ぶ必要はあまりないでしょう。
ですが、個人事業主が派遣として働くことにはいくつかのメリットが存在します。
個人事業主が派遣として働く場合、まず「安定収入が手に入る」というメリットが得られます。特に駆け出しの頃のフリーランスは、毎月安定した収入を確保することが難しいタイミングがあります。
獲得できた案件の数や単価によって、月々の収入が大きく変化します。ガッツリ稼げればそれに越したことはありませんが、クライアント側の都合などによって収入がほとんどなくなってしまうこともあるでしょう。
そんなとき、派遣としても働いていればサラリーマンの給料のように報酬を受け取ることができるので、一定の収入を確保できるようになります。派遣なら数ヶ月ごとの契約が大半なので、これから先数ヶ月は生活費の心配をせずにすむという状況もあるでしょう。
2つ目のメリットとして、「節税になる」こともあげられます。個人事業主として得た収入はそのまま売上に計上されますが、派遣として稼いだ給料には「給与所得控除」が適用されます。
つまり、同じ額を稼いだとしても個人事業主としてクライアントから直接報酬を受け取るよりも、派遣で働く給与として受け取ったほうが、支払う税金が安くすむということです。
稼ぎが少ないうちはそれほど気にする必要はありませんが、売上の金額が多くなってきて「今年はちょっと税金が多くなりそうだな」というときに、派遣として働くことで節税するという方法を取るとよいでしょう。
3つ目のメリットは、「仕事の幅が広がる」という点です。普段では使わないようなプログラミング言語を扱ってみたり、まったく違う業界のシステム開発をしたりする経験を通じて、個人事業主として働くうえでは身につかなかったスキルを習得できることがあります。
本来であれば独学で学習する必要があった知識を、派遣先で給料をもらいながら教えてもらう…なんてことも可能になります。
さらに、派遣先でさまざまな人と知り合うことで、人脈を広げられることもあるでしょう。派遣先で仲良くなった人から個人的に仕事を依頼されたり、もしくはその人の紹介で案件を獲得できたりといったチャンスが生まれ、幅広く仕事が得られるようになるのです。
派遣会社が福利厚生を用意していれば、それらを利用できるのも派遣のメリットといえます。個人事業主であれば利用できなかった待遇を受けながら、快適に働くことができるかもしれません。
ほかにも、派遣の仕事であれば勤務時間が明確に決まっているため、夜遅くまでダラダラと働き続けてしまうことを防止できます。限られた時間で効率的に作業を進めることができれば、働きすぎを避けることにもつながるでしょう。
個人事業主が派遣として働くなら、そのデメリットも知っておく必要があります。
たとえば、派遣の仕事が忙しくなってしまえば本業がおろそかになってしまう危険性があります。個人事業主としての実績を残せず、ずっと派遣として働くのであれば通常の派遣社員となにも変わりません。
派遣としての作業が負担となって、個人事業主として活動し続けられなくなれば本末転倒です。派遣の仕事は、あくまでも副業であるという位置づけにして、本業の稼ぎを補完するイメージを持って続けることが大切です。
また、確定申告の手続きがやや複雑になる点もデメリットとしてあげられます。個人事業主としての稼ぎは事業所得ですが、派遣としての稼ぎは給与所得になります。これらは別々に計算して確定申告書に記す必要があるので、収入を区別して記録する必要があります。
クラウド会計ソフトなどを使えば確定申告の手続きに迷うことはあまりないでしょう。年末になったら源泉徴収票をしっかりと取り寄せて、所得を計算することを忘れないようにしてください。
ちなみに、個人事業主としての所得が20万円以下なのであれば、確定申告は必要ありません。派遣先で年末調整の手続きをすれば、確定申告は会社が代行してくれるからです。個人事業主としての稼ぎがあまり見込めないようなら、あえて仕事をセーブして派遣の仕事に集中するのもいいかもしれません。
個人事業主としての仕事と派遣の仕事を掛け持ちするのであれば、自己管理を徹底することも重要になります。派遣の仕事をして、さらに個人事業主としての仕事もするとなれば、休みの時間がうまくとれなくなってしまうこともあるでしょう。
個人事業主は体が資本ですので、もし倒れたり病気になったりしてしまえば、翌月からの収入がゼロになってしまいかねません。派遣先が休みの日にだけ個人事業主としての仕事を進めるなど、計画を立てて仕事をこなすことがポイントになります。
なお、個人事業主と派遣とを掛け持ちするなら、クライアントや家族に対してもそのことを伝えておいたほうがいいでしょう。掛け持ちする理由をしっかりと伝えて納得してもらえれば、周囲の人たちも応援してくれるはず。何も言わずに兼業することで発生するトラブルも防止することができます。
エンジニアとして働くフリーランスが派遣として働くことは、収入の安定や節税にもつながります。うまく活用することで、本業でもいい結果を残して相乗効果が得られるようになるかもしれません。
ただし、そのためにはこれまで以上に自己管理・時間管理を徹底して、確定申告の際にもミスがないように手続きする必要があります。こうしたメリット・デメリットを踏まえながら、派遣の仕事を探してみてくださいね。